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ピラミッドのROI

大林組の試算によると、現代の技術でピラミッドを建てるとすれば1,250億円を投資して5年かかるらしい。
ちなみに、スカイツリーの建設費は約400億円、六本木ヒルズは2000億円強である。

ピラミッドは、通常であれば、1日2万人が訪れる。入館料だけ見ると、クフ王のピラミッドは約1500円。1日3000万円、年間では100億円程度の入館料収入がある。さらに宿泊や移動、食事などが発生するから、観光収入はずっと大きい。なお、エジプトの年間観光収入は6000億円ほどである。仮に観光収入の半分がピラミッド関連だとすると、ピラミッドのROIは凄まじいことになる。

もし今、日本でピラミッドを建てるとしたら、どんな企画書になるのだろうか。
目的はなんだろうか?何を目指したのか、いまいちわからない。コンセプト。これもわからない。ターゲット。想定顧客といっても、そういうのが好きな人がターゲットとしか言いようがない。

絶対、この企画書の上申は通らない。他社事例としてクフ王があるだけ。戦略、まるで無し。

大きいものには独自の引力がある。お台場にガンダムを建てても、日本を守ってはくれないだろうから、ガンダムそれ自体になんらかの機能があるわけではない。小さなプラモデルを置いてもまあ人は来ないだろうから、大きいこと自体にかなりの価値がある。もちろん、大きくあることに機能的な意味はない。意味はないのに、労力はかかっている。労力をかける意味は、内部の人たちだけが知っている。

小さい頃から、お祭りに参加するのが好きでなかった。納得できないところがあった。なぜ特定の日にちだけ、音楽や食べものを出して、皆がそろって大げさに踊ったり集ったりする必要があるのだろうか。なぜ私はハッピを着て太鼓を叩く必要があるのか。何を目的にしているのだろうか。なんだかとても一生懸命だが、外から眺めてもわからない。中にいる人には、分かる何かがある。

少し前に、「濡れたスクール水着の上にTシャツを羽織っている風のTシャツ」が話題になった。リンク先ヴィレッジヴァンガードの商品ページ。見ると思わず、誰かに伝えたくなる。有益な情報は世にあふれているのに、どうしてこれを伝えたくなるのか。開発に多大な(無駄な?)労力が想像され、そのくせ記述は少なく、「濡れ透け」や「VV限定」など内輪受けのエネルギーだけが感じられる。

ある集団が、中にしかわからない理由で、多大な労力をかけて何かを作り出す。人は好奇心の生き物だから、そうなれば見たくなり、知りたくなり、理解したくなる。かくして、その場に人が集まる。効率を重視して必要最低限に作り、きちんと論理的に説明がなされるほど、引力は消えていくように思う。きっと、そのほうが上申しやすいが。

労力の大きさ×内側論理の独特さ、という計算式で、引力を作るタイプのROIが考えられそうだ。