β2

何かをやめさせる時の考え方

仕事では、なにかをしてもらおうとして作戦を練ることがある。じゃあ、なにかをやめさせるというプランはどうだろうか。世の中には、いじめ対策みたいに「なにかを防止したい」というような場合が多くある。こういうとき、どうすると効果があがるのか。

何かをしている人をやめさせたいときに、まずいアプローチというのはすぐに思い浮かぶ。「意志の力で殲滅する」。がんばって、あるいはがんばらせて防止しましょう、のような。人間は何かと意思に頼りたがる。意思で物事が動いていると考えがちだ。それは事実ではなく願望だと思う。

罰を用意すればいいかというとそうでもない。罰は免罪符になってしまうこともある。かつて海外の幼稚園で遅刻に罰金を科したら、むしろ罰金を払えばいいのだと遅刻が増加したという話を聞いたことがある。

ではどうするか。

まず「ガス抜き」だ。元の欲望を、ちょっと似た別の欲望にして受け流す。悪意のあるハッカーに効果のある対策は、彼女を作らせることだと前に見たことがある。いわゆるエロ本や残酷ゲームも、一般には犯罪の温床などと呼ばれているけど、ガス抜きに役だっていると思う。この方法のいいところは、当の本人も気づかないうちに欲望が抜かれているところだ。

次に「ワクチン」だ。ひどくなる前に、いったん軽くかかって慣れろという考え方は素晴らしい。過去に、振り込め詐欺の対策について考えたことがあったが、被害者になりそうな人に練習させてしまうというアイデアがあった。

更に「抱き込み」だ。これは元の欲望の力をそのまま利用してしまうという話。アーティストが海賊版があると聞きつけて、むしろ現地にライブに行ったとか、あるいはニセモノコピーに悩んでいた企業が、それを生産していた工場を買収してしまうとかというのが、この方向性になる。かつて日本がアヘン中毒への対策を行うときに、アヘンを政府専売として、その販売金を別の基金とした・・というのも、このバリエーションに入りそうだ。

「欲望によって欲望を止める」という方向性もある。台湾ではお店がレシートを発行せず、売上金額が把握できず脱税が多発していたそうだが、レシートを宝くじとすることによって対処した。お客さんは宝くじとしてのレシートを欲しがるから、お店もそれを発行せざるを得ない。お客さんの欲望でもって、お店の欲望を止める。ウェブのマッチングデートサービスが出会った男女間での犯罪を防ぐために、ダブルデートサービスにしたというアイデアも聞いたことがある。一対一なら犯罪の可能性もあるが、二対二にしてしまえばその可能性も低くなるということだろう。

いずれのアプローチにも共通しているのは、欲望を飼いならすという視点だ。殲滅するのではなく、うまく対処する。技術的なポイントは、何かを取り除くのではなく何かを足すことによって解決するということにある。ハッカーには彼女を、振り込め詐欺には練習を、海賊版にはライブを、脱税にはレシートを、それぞれ新たに持ってくることによって対処している。何かを防止するからといって、それそのものを消去しに行かない。

いうならば、何かをやめさせるということは、なにか別のことをさせるということだ。

いじめ、どうすればいいだろうか。たとえば上記の考えに従うなら、かわいいペットを教室に導入するとか。「かわいがり」を「かわいがり」にうまく転化できれば、あり得るかもしれない。